映画「ニンフォマニアック」は、心の奥底に届く鋭い刃物のよう

  • 2015.12.02 Wednesday
  • 11:14




ラース・フォン・トリアー監督の「ニンフォマニアック」。思い出したくないほど、深い傷を受けました。久しぶりです。なぜ、こんなに苦しく憂鬱なのでしょう。

私が男であることによって、打ちのめされた作品はたくさんありましたが、今回は別格です。前半がコメディタッチなので、すっかり油断してしまいましたが、トリアー監督の「鬱三部作」の最終作なのでした。

ある冬の夕暮れどき、年配の独身男であるセリグマンは、怪我をして倒れていた中年女性ジョーを見つけ、自宅に連れて介抱します。何があったのか質問したセリグマンに、ジョーは幼い頃から抱いている性への強い関心と、多くの男たちとの物語を語り始めます。

読書家のセリグマンは、ジョーの物語を、本で読んだことと関連付けます。哲学、宗教、釣り、音楽などに詳しいです。セリグマンとジョーの掛け合いで、物語は転がります。初体験の場面が、フィボナッチ数列という数学と関連づけられる意外性からして、笑わずには入られません




「ニンフォマニアック」という題名通り、強い性的欲求を抱えた女性の半生を、2部作4時間で描いています。若いジョーをステイシー・マーティンが、中年期をシャルロット・ゲンズブールが演じています。二人は細身であるほかは全然似ていませんが、トリアー監督らしい配役ですね。ステイシー・マーティンは、この作品で一躍注目されました。セリグマンを演じたステラン・スカルスガルドは長年のキャリアを感じさせます。

有名俳優が、意外な役で登場します。シャイア・ラブーフは、ジョーの初恋の人。ユマ・サーマンが奥さん役で登場し強烈な修羅場を演じます。驚きの配役です。いつもながら音楽も独特のセンスを感じさせます。最初からヘビメタですから。ステッペンウルフの懐かしい「ワイルドで行こう」も良かったです。

トリアー監督の作品は、憂鬱な展開が多いのですが、「ニンフォマニアック」は、知的なコメディのように、ウイットに富み、含蓄があり、驚くほど面白いです。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」をはじめ、トリアー監督は見事なストーリーテラーです。

最後に、驚くべきどんでん返しがあります。トリアー監督は、精緻に創り上げた作品を最後に粉々に砕きました。第1部のコメディも、第2部のシリアスさも、全て計算づくだったのです。私の心も砕かれました。傷は一生残るかもしれません。トリアー監督は悪くありません。私が弱いだけです。

新たなミュージカル仕立てで既存のミュージカルを批判し、絶望と希望を融合した「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の時も、ラストシーンに凍り付きました。それは悲劇であるとともに、救済でもある奇跡的なラストでした。「ニンフォマニアック」のラストは、それとは全く違う衝撃でした。性的な表現の過激さなど比較になりません。本当に心の奥底に届く鋭い刃物のようでした。




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