2017年独断映画ベスト10
- 2017.12.24 Sunday
- 18:22
私がことし劇場で観た作品に限っているので、多くの傑作を観ていないと思います。ご了承ください。2017年は洋画・邦画を合わせたベスト10です。
★10位「ザ・ダンサー」
モダンダンスの創設者ロイ・フラーの半生を描いた衝撃の映画「ザ・ダンサー」。監督は、写真家のステファニー・ディ・ジュースト。モダンダンスの創設者ロイ・フラーの半生を映画化しました。ロイ・フラーは、19世紀、まだ女性によるダンスが卑しいものとされた時代に、ドレスや照明、鏡を用いた新たなダンスアートを創作しました。
照明を巧みに使ったロイ・フラーの美しい踊りの映像に、息を飲みました。19世紀のダンスというより、現代のパフォーマンスそのものです。イサドラ・ダンカンに比べ、ロイ・フラーの名は、あまり知られていません。しかし、アートとテクノロジーが密接にかかわる現代において、ロイ・フラーの先駆性、先見性は、高く評価されるべきです。その意味では、非常にタイムリーな映画化です。
★9位「エル ELLE」
ポール・バーホーベン監督の「エル ELLE」は、監督の個性が全開のぶっとんだ作品です。アメリカでは制作できず、フランス映画です。イザベル・ユペールを主演に迎えました。いつもながら、凄まじい演技です。
「スターシップ・トゥルーパーズ」など、わざと神経を逆なでする表現を盛り込むバーホーベン監督の意地の悪さは、ますます洗練されてきています。
★8位「エタニティ -永遠の花たちへ- 」
「エタニティ -永遠の花たちへ- 」は、 トラン・アン・ユン監督が「ノルウェイの森」以来6年ぶりに手がけた監督作品です。初めてフランスを舞台にしました。運命に翻弄されながらも命をつないでいく、上流階級の大家族の女性たちの姿を、描いています。
心理描写やドラマ性を抑え、人物を描くというよりも、時の流れを描いています。その美しい絵巻物のような映像は、残酷で陶酔的です。ここまで妥協のない洗練された作品が、完成し劇場公開されたことに驚きます。
★7位「オン・ザ・ミルキー・ロード」
エミール・クスト・リッツァ監督が9年ぶりにメガホンをとり、監督自らが主演し、モニカ・ベルッチをヒロインに迎えました。戦争が続く架空の国を舞台に、壮大な愛の逃避行が繰り広げられます。映画の魅力を堪能しました。映画が持っている屈折したバイタリティ、多面的な高揚感を感じました。監督の集大成との評価がありますが、過去の作品よりも表現がシャープになっていると思います。
「アンダーグラウンド」でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞して20年以上経ちますが、カラフルな映像とぶっ飛んだアイデアは、ますます冴え渡っています。踊りだしたくなる音楽も魅力的です。
★6位「ラ・ラ・ランド」
デイミアン・チャゼル監督のミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」。ことし第89回アカデミー賞で、史上最年少での監督賞、主演女優賞など最多6冠に輝きました。往年の名作ミュージカル映画を連想させる場面をふんだんに盛り込み、華麗な仕上がリです。
いろいろと不満もありますが、愛すべき映画であることは否定できません。ジャズピアニスト役のライアン・ゴズリングは、猛練習をしたとはいえ、ピアノ演奏があまりにも見事です。歌にも踊りにも、キレがありました。
★5位「おとなの事情」
「おとなの事情」は、パオロ・ジェノベーゼ監督のイタリア映画。7人が集まってディナーを囲む会話劇が中心ですが、これほど練られた脚本は、久しぶり。あまりの巧みさと面白さに得した気分になりました。
ディナーの場が修羅場と化す、ぐちゃぐちゃの展開は、狂気を象徴する月食の夜に起こります。最後は、ディナーではゲームは行わずに何事もなかったように、それぞれ家時に着きます。月食の夜の幻というオチも大人の味わいです。思わぬ収穫でした。
★4位「光」
河瀬直美監督の「光」。視力を失いかけているカメラマンと映画の音声ガイド制作者が、対立しつつ心を通わせていく物語。第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選ばれました。
繊細な光の世界と多彩な音の表現。音声ガイド制作を描きながら、映画そのものの可能性、人間存在の不思議さを表現しています。カメラマン役の永瀬正敏は、うまい役者ですが、今回は別格の演技をみせます。いや、演技ではなく役を生きています。
★3位「お嬢さん」
映画「お嬢さん」は、パク・チャヌク監督が、イギリスのサラ・ウォーターズの小説「荊の城」を原案にしながら、物語の舞台を1930年代、日本統治下の韓国に置きかえて描いていきます。端正な美術と、良く練られた脚本が濃厚な映像世界を築いています。
日本と韓国の屈折した関係に正面から迫りました。韓国映画ですが、4割は日本語での会話です。秀子が日本の官能文学を朗読する場面の魅力は、日本語を理解していないと十分に味わえません。妥協のない表現で、女性たちの同性愛を描いている点にも感動しました。この映画は、現在の日韓関係を考えると、歴史を踏まえた、とても大胆な挑戦に思えます。
★2位「ブレードランナー 2049」
「ブレードランナー」に大きな影響を受けた私にとって、本当に感慨深い作品です。「ブレードランナー 2049」は、「ブレードランナー」の30年後が舞台です。監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。リドリー・スコットは製作総指揮を務めました。主演は、レプリカントのKを演じたライアン・ゴズリング。ハリソン・フォードが、再びデッカード役で出演しています。予想を上回る傑作です。
映像の質感は、前作「ブレードランナー」を引き継ぎつつ、かなり変化しています。私は、アナ・デ・アルマスが演じたKと恋人関係にある人工知能ジョイのはかない美しさ、廃墟となったラスベガスの懐かしいホログラム舞台の場面が好きです。
★1位「リュミエール!」
この映画は、私にとっては別格のドキュメンタリーです。映画史についての見方を変えてくれました。そして、本格VRの黎明期における心構えを示してくれた作品です。
映画「リュミエール!」は、リュミエール兄弟が1895年から1905年の10年間に製作した作品1422本から選んだ108本で構成し、4Kデジタルで修復しました。1作品は50秒程度です。
ティエリー・フレモー氏が、監督・脚本・編集・プロデューサー・ナレーションを兼任しました。カンヌ映画祭の総代表で、リヨンのリュミエール研究所のディレクターを務めています。作品の選択と的確な解説は、本当に絶妙でした。
まず、その映像の美しさ、構図の見事さに感動しました。後に発明されたとされる映画的なアイデア、多彩な映像表現を、すでに試みていたことを知り心底驚きました。映画好きなら、絶対に見逃せない作品です。