kinematopia90.12(3)『ボイス・オブ・ムーン』『式部物語』

  • 2016.05.06 Friday
  • 10:34


 

 

 

 

 

「フェリーニの新作『ボイス・オブ・ムーン』は、『インテルビスタ』に似たとりとめのない作品。徹底的に自由な悪ふざけの連続でありながら、フェリーニ的なお祭りと人間の哀しみが描かれている」「シーンごとの意味を理解しようとしても、難しい。むしろつ かみどころのなさにこそ、この映画の持ち味がある。管理・規格化された現代への抗いなのかもしれない」「月はいつでも懐かしい」

 

 

 


「利休がなぜ死ななければならなかったのかを、キリキリ緊張した展開で魅せた『千利休本覚坊遺文』があまりにも良かったので、ひそかに期待していた新作『式部物語』(熊井啓監督)には、ほとんど失望した。宗教と性と愛という切実なテーマを示しながら、結局は未消化のままで終わった」

「主人公が精神障害を起こす原因を、原作の炭鉱事故から一般の事故に変えてしまっ たことで、歴史的な重みを失った」「ただ、野火をはじめ炎のシーンの美しさだけは認めていい。さすが熊井啓監督だ」


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kinematopia90.12(2)『ゴースト・ニューヨークの幻』『48時間PART2』

  • 2016.05.06 Friday
  • 10:33


 

 

 

 

 

「いつもアベックでいっぱいの『ゴースト・ニューヨークの幻』(ジェリー・ザッカー監督)に移ろう。各要素のバランスはいいが、ストーリー自体はいたって単純。人間の彫り下げも浅く、勧善懲悪の世界。評論家たちが口をそろえて指摘する『伏線の見事さ』は褒めすぎだ。ただ、霊媒師役のウーピー・ゴールドバーグのパワーのある演技は見事。良 質のコメディで中盤を盛り上げた」

 

 

 


「甘ったるい『アンチェイド・メロディ』とともに展開するラブシーンは、観てる方が恥しい」「同時上映の『48時間PART2』は、スピード感のある前作『48時間』 の雰囲気を失わず、まずまず楽しめた。エディ・マーフィが年取ってしまったのは残念だけれども」


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kinematopia90.12(1)『トータル・リコール』

  • 2016.05.06 Friday
  • 10:32


 

 

 

 

 

「フィリップ・K・ディック原作の『トータル・リコール』(ポール・バンホーベン監督)は、息つく暇のないほどスピード感のある作品。サイボーグの悲哀をアクション映画に定着した前作『ロボコップ』に続き、畳みかける展開は力量を感じさせる。ラストの1分間は、反ディック的ながら、脚本は良くできていた」

 

 

 


「現実と模造された現実の区別がつかなくなるという映画 の展開に、私たちも巻き込まれていく快感。1980年代のアクションとSFホラー映画の良質的な部分を、うまく取り込んでいた」


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kinematopia90.11(3)『フランチェスコ』

  • 2016.05.06 Friday
  • 09:32


 

 

 

 

 

「ナチズムの退廃的な官能を描いた『愛の嵐』(1973年)、ニーチェらの苦悩する切実な日々を取り上げた『ルー・サロメ 善悪の彼岸』(1977年)のリリアーナ・カバーニ監督の新作『フランチェスコ』を複雑な思いで観た。10年ぶりに再会したカバーニの作風は、すっかり変わっていた」

 

 

 


「『愛の嵐』『ルー・サロメ 善悪の彼岸』の独特な屈折感、湿った頽廃的な魅力がまるでない。フランチェスコという聖人を描いたにしても、あまりにも乾ききっている 。これまでは男性を圧倒していた女性たちが、ここでは終始慎ましやかに男性の脇に回っている。ミッキー・ロークをフランチェスコ役に抜擢したのは面白いが、映画としての説 得力はあまりに乏しい」


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kinematopia90.11(2)『さよならの子供たち』『彼女がステキな理由』

  • 2016.05.06 Friday
  • 09:31


 

 

 

 

 

「『さよならの子供たち』の感動が、まだ胸に残るルイ・マル監督の新作は、フランスの5月革命を田舎の地主家庭を舞台に描いた『五月のミル』。あまり観客は入っていなかったが、人物一人ひとりの造形がくっきりとし、祝祭的なコメディタッチが生かされたな かなかの佳品だ。笑いにくるまれた毒が、あちこちに散在している」「ブニュエルの『皆殺しの天使』へのオマージュになっているね」

 

 

 


「『彼女がステキな理由』(メル・スミス監督)は、ジェフ・ゴールドブレム主演の辛 口のラブコメディ」「あの『ザ・フライ』のゴールドブレム?」「そう。今回はエレファ ントマンを演じる売れない俳優の役だ。前半はドタバタ的なギャグの連発が鼻につくが、 後半はテンポの良い展開。傑作ではないが、妙にやるせなくなる映画だったよ」


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kinematopia90.11(1)『つぐみ』『バカヤロー!3』

  • 2016.05.06 Friday
  • 09:30


 

 

「吉本ばなな原作の『つぐみ』(市川準監督)は、少女たちの感情を丹念に追いながら、うつろいやすく掛けがえのない夏の日を、いつくしみつつ映像化している。中嶋朋子の さわやかな好演も光るが、牧瀬里穂の熱演がこの作品を支えた」

 

 


「『ノーライフキング』では、ファミコンの神話的なリアルに対し現実世界のリアルを愚直に対置した市川監督は、一方で一抹のとまどいも見せていた。しかし、今回は西伊豆の海という大きな背景を得て、少女たちの微妙な揺れを見事につかまえている」

「吉本ばなな原作では、森田芳光監督の『キッチン』と対比したくなるが、両監督の資質の違いが痛感させられる。森田監督は映像のセンスはさすがだが、時代に対する批評性がなさすぎる。人の強さのみを評価した昔が人間の持つ弱さを抑圧したように、軽さや透明さを高く評価する現代は、人間に固有の不透明さ、避けがたい重さを抑圧しているのだから」

「『バカヤロー!3』は、森田芳光監督の総指揮・脚本。 『バカヤロー!2』よりは面白いが『バカヤロー!1』の新鮮なショックはない。4人の監督は、それぞれの持ち味を出そうとしているが、私は長谷川康夫監督の『過ぎた甘えを 許さない』を買う。清水美砂も随分と成長した」


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kinematopia90.10(3)『数に溺れて』

  • 2016.04.25 Monday
  • 15:24


 

 

「男がバタバタ死んでいくのがピーター・グリーナウェイ監督の『数に溺れて』(1987年)。3人の女性がいらなくなった夫を次々に溺死させていく。『建築家の腹』(1986年)以降、『男が死に女が生きる』という基本構図が鮮明になった」「『数に 溺れて』は、シンメトリカルで絵画的な彼の作品の中でも、最も絵画的な映画だと思う。グリーナウェイ監督らしい仕掛けが幾層にも重なっているが、笑えるのは冒頭からラストに向けて一から百までの数字が画面のどこかに散りばめられているという趣向。ついついムキになって探してしまった」

 

 


「グリーナウェイは、画家を志していたが、ベルイマン監督の中世の世紀末を独自の映像で表現した『第七の封印』を観て映画監督を目指したという。奇っ怪なストーリー展開、どこか謎めいた雰囲気など『第七の封印』の影響はかなり濃厚だ」


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kinematopia90.10(2)『私の夜はあなたの昼より美しい』

  • 2016.04.25 Monday
  • 15:23


 

 

「危機的な状況を描く監督と言えば、アンジェイ・ズラウスキーを忘れることはできない。1940年ポーランド生まれ。アンジェイ・ワイダ監督作品の助監督などを務めた。1980年代は、『ポゼッション』(1981年)、『私生活のない女』(1984年)、『狂気の愛』(1985年)とフランスで作品を発表している」

 

 


「彼の新作『私の夜はあなたの昼より美しい』も、『狂気の愛』同様、ソフィー・マルソーが主演している。『ラ・ブーム』で、13歳でデビューした彼女も、演技派に成長した」

「この作品も、愛と暴力と狂気というズラウスキーらしいテーマを基調としているが、雰囲気は変わってきた。『狂気の愛』は、冒頭から破壊的なアクションシーンの連続で、騒々しくヒリヒリした感覚の結末を迎える。『私の夜はあなたの昼より美しい』は、時折けだるささえ漂い、静かなシーンが目立つ。 暴力シーンも短時間で終わり、何よりも人があまり死なない。ズラウスキーに何かが起きたのだろうか」


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kinematopia90.10(1)『トミー』『ダイ・ハード2』

  • 2016.04.25 Monday
  • 15:21


 

 

「ケン・ラッセル監督の『トミー』(1975年)が、リバイバル上映された。イギリスの ロックハンド・『ザ・フー』の創作によるロック・オペラの映画化。先駆的なアイデアが 次々と登場する音楽映画の時代を画する名作だ。ストーリーはシリアスだが、随所に遊び 感覚が生きている」

 

 


「ロック映画というとピンク・フロイドの『ザ・ウォール』(1982年)と比較したくなる。『ザ・ウォール』の狂気の方が、より重く苦しい。ロジャー・ウォータースの脚本の影響だろう。今から振り替えると、ともに危機的な状況を表現しているが、『ザ・ウォール』が1970年代、『トミー』が1980年代を表現しているように見えるのが、不思議だ」

「『ダイ・ハード2』(レニー・ハーリン監督)は、終始緊張が連続した 『ダイ・ハード』(ジョン・マクティアナン監督)に比べ、かなり見劣りする。スケ ールは大きくなったが、『1』ではぎりぎり人間の限界内にいたブルース・ウィルスが『2』では限界をはるかに超えてしまった」


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kinematopia90.09(2)『コックと泥棒、その妻と愛人』

  • 2016.04.19 Tuesday
  • 14:27


 

 

「ピーター・グリーナウェイ監督の新作『コックと泥棒、その妻と愛人』は、映画的な仕掛けに満ち満ちた作品。その重厚で華麗な映像と人間への悪意 に満ちた感触は、腐りかけた極上のステーキのようだ」

 

 


「『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』(ブニュエル監督)、『最後の晩 餐』(マルコ・フェレーリ監督)と、食欲をテーマにした映画は、暴力や性欲と結びつき、毒の利いた作品になってい る。『コックと泥棒、その妻と愛人』も、レストランを舞台に、客席、厨房、化粧室、外 と、明確に色分けし『食』に象徴される人間の根源的な暴力性を明らかにしていく。その展開は、必然的にカニバリズムにまで至る」

「それにしても、この映画ほどカニバリズムを魅惑的に描いた作品は少ない。温野菜で美しく飾られた人間の丸焼きの登場は、一つの事件だ」「ジャン・ポール・ゴルチエが手掛けた衣装も、雰囲気にぴったりだった」


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