kinematopia92.12(4)『青春デンデケデケデケ』
- 2016.04.01 Friday
- 14:08
「大林監督は、77年の当時としては斬新な手法の美少女ホラー『ハウス』以来、15年間に22本の映画を撮っている。ほとんど毎年作品を発表している。日本では近年類例がない。大林監督は、信じがたいほど初心を貫き、観る人を魅了し続けている」
「主演の宗介役・原田芳雄がムチャクチャにいい。クライマックスで女装し絶唱する『愛の讃歌』は、なんてソウルフルなんだろう。原田の骨っぽさとたおやかさの妙は、絶品。男と駆け落ちを繰り返すレイコ役の藤谷美和子もすごく色っぽい。『女殺油地獄』での好演を、さらに上回る熱演をみせた。宗介から腎臓をもらう筧利夫の演技力も光った」
「『仕立て屋の恋』(パトリス・ルコント監督)は、80分の作品。『美しき諍い女』の3分の1の長さだが、ピシッと決まっていて味わい深い」「私のように気の弱い男にとっては『死ぬほどせつない』悲恋物語だよ」「闇の中、向かいのアパートの女性をのぞき続 けるイール。その視線はストイックですらある。見つめられるアリスは恋人をかばうためイールに近づき罪を負わせようとする。それぞれの愛と孤独が際立つ。そして、少女の視線が厚みのある余韻を残す」
「フィリップ・リドリー監督の初長編『柔らかい殻』は、1950年代のアメリカという時代の奥行きと緊張感を生かし、少年時代の残酷さと純粋さを描いた作品。数々のアイデ アの秀抜さと映像の独特な美しさに圧倒される」
「巨大なカエルが破裂する冒頭のシーン、骨に囲まれたドルフィンの家、主人公セスの父親の壮絶な焼身自殺、原爆で被曝した子供の写真を含む3枚の写真の絶妙さ、水爆実験に兵士として参加し衰弱していく兄と、兄の衰えが吸血鬼のためだと考えるセス。基底に核の問題があり、同性愛差別を含めて登場する人物が皆切実な悩みを抱えている」「幻想と現実の切れ目の無さのリアリティなど、魅力を上げていけばきりがない」「1992年のベスト1最有力候補だ」
「4時間の大作『美しき諍い女』(ジャック・リヴェット監督)は、絵画創造の真髄に迫る作品。絵画を描く過程で変化していく人間関係が鋭く緻密に映像化される。深く的確な配置。91年カンヌ映画祭グランプリは当然だ」
「画家とモデルは創造のためにむきだしの格闘を展開し、至福を共有する。エマニュエル ・ベアールの好演が光る。画家はモデルに無理なポーズを要求し『肉体を解体』しようとする。身体の解体といえば、92年4月28日に死去したフランシス・ベーコンの絵画を連想してしまうが、映画はあくまでも肉体を超えて内面の本質に迫るという一昔前の美意識に支えられている」
「絶対美という確信が存在しているが故に、観客は画家の眼になり、手になって恐ろしい創作の過程に参加することができる」