映画「プリシラ」は、3人のドラァグ・クイーンのちょっぴり苦く、すこぶる陽気な珍道中

  • 2016.02.11 Thursday
  • 23:14




「プリシラ」(1994年。オーストラリア映画)は、ステファン・エリオット監督・脚本の作品です。シドニーに住む3人のドラァグ・クイーンが、オーストラリア大陸の砂漠の真中の街アリススプリングのホテルで開かれるショーに出るために、バス「プリシラ号」に乗って旅するロードムービーです。

ど派手な女装のゲイ三人のちょっぴり苦く、すこぶる陽気な珍道中。露骨な差別をはねかえすパワーに満ちあふれた作品です。騒々しいけれど、とてもデリケートに仕上がっています。

ドラッグ・ショーでは、観客みんなで大笑いしました。彼らが辛さを隠して陽気に振る舞っているという見方は間違っています。差別を笑い飛ばして肯定的な力に変えるスタイル。そこに、新しい生き方の可能性が秘められています。


ピーター・ジャクソン監督「乙女の祈り」、ジェラール・コルビオ監督「カストラート」

  • 2016.02.11 Thursday
  • 19:06




「乙女の祈り」(1994年)は、ピーター・ジャクソン監督の作品です。それまでとは作風を大きく変えました。母親を殺すまでの二人の少女の屈折した感情の揺れ、現実から逃れようとする幻想世界の質感を見事に描き切っています。

デビュー作の手作り感あふれる「バッドテイスト」の素人っぽさに比べて、なんと成長したことでしょうか。とても巧みになりました。凄まじい才気を感じます。

「カストラート」(1994年。フランス・イタリア・ベルギー合作)は、ジェラール・コルビオ監督の作品です。ボーイソプラノを保つため去勢されたファリネッリをバロック的に描いています。現代風に、両性具有を肯定的に描くのではなく、一つの負い目として位置付けていたのは、良かったと思います。

カストラートという存在の社交界での位置、ヘンデルとの確執、ゲイ的な兄弟愛のはげしさなどのテーマがありますが、映画を観終わって大きく残るのは、この世のものとは思えない歌声です。圧倒的に美しい。コンピューターで男女の声を合成したものですが、まったく違和感がありません。オペラの派手な衣装も良かったです。



大林宣彦監督の映画「あした」、船の事故で死んだ人達が帰ってくる

  • 2016.02.11 Thursday
  • 16:10




大林宣彦監督の「あした」(1995年)は、船の事故で死んだ人達が、愛する人に「決められた時間に会いにくる」と、メッセージを送るというストーリーです。その人達が集まり、その時間を待つまでの物語。出会い、そして別れが描かれます。

主演の高橋かおりよりも、宝生舞の方が存在感がありました。植木等は極上の味を出していました。誰も会う人がいないので船の中に一人残っている死者役の原田知世は、おいしい所をちゃっかり頂戴したという感じです。

三か月前に死んだのに、生前そのままの姿で帰ってくるという展開が、ひっかかりました。待っている人達が、どんな姿で出てくるのかと、ちょっと心配するシーンがありますが、一捻りほしかったと思います。 

大林監督はよく健闘したと思うけれど、最後まで違和感が残りました。「ふたり」の死者の自然さには及びませんでした。








1930年代の大粛清時代のソ連を舞台にした映画「太陽に灼かれて」

  • 2016.02.11 Thursday
  • 15:07




ニキータ・ミハルコフ製作・監督・脚本・主演の「太陽に灼かれて」(1994年。ロシア・フランス合作)は、1930年代の大粛清時代のソ連を舞台にした人間ドラマです。絶望の官能性とでもいうべき屈折した映画です。1994年カンヌ国際映画祭最高賞グランプリを受賞しています。

スターリン時代の想像を絶する大粛清という20世紀ロシア最大のテーマに対し、ミハルコフは極めて人間臭いアプローチの仕方をしています。閉塞した状況の中でいかに陽気に生きるか、という困難な問いを突き付けます。しかも、あくまでも官能的に。

人々が、とても美しい。中でも、監督の6歳の娘ナーシャの愛くるしさは特筆に値します。「身内を使い出すと監督も終りだ」という言葉があり、この作品についても同様の批評がありますが、この作品に限っては、それは当たっていません。



ロン・ハワード監督「アポロ13」、フランク・ダラボン監督「ショーシャンクの空に」

  • 2016.02.11 Thursday
  • 14:33




ロン・ハワード監督の「アポロ13」(1995年)は、アメリカの輝かしい希望を描いています。失敗譚を奇跡の成功に変えてしまうという、いかにもアメリカ的なストーリーです。

しかし「おいしい話」を、誇張せずにじっくりと盛り上げていく確かな計算が感じられました。本当の無重力状態をはじめ、セットがリアルさをしっかり支えていました。

フランク・ダラボン監督の「ショーシャンクの空に」(1994年)も、希望の映画です。逆境の中で希望を捨てずに努力し、やがて成功するというパターンは苦手なのですが、細部がしっかりしていて、上品なユーモアがありテンポもいいです。

ティム・ロビンスは相変わらずうまい。冤罪や刑務所内の汚職、虐待という重いテーマを扱ったようにみえて、本当は観客のカタルシスを追求した傑作エンターテインメントといえるでしょう。



映画「午後の遺言状」、老いと性を描きながら、すべてをユーモアで包む

  • 2016.02.11 Thursday
  • 12:51




「午後の遺言状」(1995年)は、新藤兼人監督・原作・脚本です。日本を代表する名女優の杉村春子の最後の映画主演作であり、生涯の伴侶であった乙羽信子の遺作であり、1950年に引退していた朝霧鏡子の45年ぶりの出演作です。

老いと性を描きながら、すべてをユーモアで包んでいます。その軽み。乙羽信子の遺作になることを知りながら、しかし映画を楽しんでいます。

新藤兼人は、極めて個人的な思いを、映画という広いステージに昇華しています。見事と言うほかありません。言葉を一切省いた世界的な傑作「裸の島」との同時上映を望みたいところです。



クトゥルフ神話を下敷きにした映画「マウス・オブ・マッドネス」

  • 2016.02.11 Thursday
  • 09:10




「マウス・オブ・マッドネス」(1994年)は、ジョン・カーペンターズ監督の作品です。失踪したホラー作家を探す保険会社社員が、著作小説にヒントがあることに気づいて、行方を追い始めます。地図にない田舎町に近づくと、さまざまな怪奇現象に出会い、悪夢の世界に巻き込まれていきます。

クトゥルフ神話を下敷きにした素材、個々のアイデアは悪くありません。しかし、ホラーとしてのストーリー的な盛り上がりに欠けます。「遊星からの物体X」のような寒々しい恐怖が足りません。 

1970年代の「エクソシスト」「オーメン」「キャリー」「サスペリア」といった傑作ホラーから、なかなかステージが上がりません。その後は、スプラッター・コメディに走ってしまっています。



熊井啓監督の「深い河」、高橋伴明監督の「愛の新世界」

  • 2016.02.11 Thursday
  • 08:19




熊井啓監督の「深い河」(1995年)は、人間を見つめています。「千利休 本覺坊遺文」(1989年)のキリキリする緊張した映像ではなく、苦悩する人間を静かに包み込む自然描写が美しいです。

ガンジス河に入るシーンなど、秋吉久美子の存在感は圧倒的。他の熱演がかすみました。彼女自身「これ以上の役には会えないかもしれません」と言っていました。 

原作は遠藤周作の集大成。意味に縛られた人々への思いが伝わってきます。この作品に対抗できるのは、高橋伴明監督の「愛の新世界」(1994年)くらいです。風俗壌たちの陽気さ。意味に囚われることなく人生をサーフィンしています。だからラストは河ではなく、より根源的な海と戯れます。



ベッソン監督の「レオン」、エメリッヒ監督の「スターゲイト」

  • 2016.02.10 Wednesday
  • 22:31




リュック・ベッソン監督の「レオン」(1994年。フランス・アメリカ合作)は、アメリカ的アクション映画を巧みにとり込みながら、ユーモアをまじえて人間的な艶のある作品に仕上げています。「ニキータ」よりも完成されていると思ぃます。映像的にも、ベッソンのある成熟を感じさせる出来栄えです。

12歳の少女マチルダ役のナタリー・ポートマンは「すごい」の一言です。キュートで、しかも大変な存在感を放ってぃます。殺し屋レオン役のジャン・レノも渋い演技を見せてくれますが、彼女の魅力の前では、色褪せるほどです。

ローランド・エメリッヒ監督の「スターゲイト」(1994年)は、エジプトで発見された謎の環状遺跡スターゲイトを巡る物語です。とても金を使っていますが凡庸な内容です。ハリウッドの底の浅さの表れです。

ラー役のジョイ・デビッドソンの魅力だけが救いです。あれだけSFXに金を掛けるなら、瀬名秀明の傑作ホラー「パラサイト・イヴ」を、ぜひ映画化してもらいたいと思います。



映画「スピード」「スペシャリスト」「セバスチャン」

  • 2016.02.10 Wednesday
  • 20:21




ヤン・デ・ボン監督の「スピード」(1994年)は、単純なアイデアで、とにかく2時間飽きさせませんでした。たいしたものです。デニス・ホッパーが、久々にはまっていました。ただ、最後に接近戦になったのは、ありきたりの展開で残念でした。

ルイス・ロッサ監督の「スペシャリスト」(1994年)は、底は浅いですが、アクション娯楽作品としては十分水準に達していると思います。シャロン・ストーンの魅力も健在でした。 

デレク・ジャーマンの長編処女作「セバスチャン」 (1975年)も劇場公開されました。音楽ブライアン・イーノ、振り付けリンゼイ・ケンプというのが、すごいです。ホモセクシャルを全面に打ち出している画期的な作品ですが、まだ習作の域を出ていません。パンクな感性や時に驚くほどの美しさを見せる映像は、たしかに才能を感じさせますが、未完成です。



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