映画「バスキア」、落書きアーティストを懐かしむ感傷ばかりが感じられる

  • 2016.02.03 Wednesday
  • 16:39




「バスキア」( 1996年、アメリカ映画)は、ジュリアン・シュナーベル監督・脚本の作品です。1980年代の落書きアーティストを映画化する意味は、漂白されて、すべてがパッケージ化されつつある1990年代に、その芸術の暴力性を思い返すことでなければならないでしょう。しかし、昔を懐かしむ感傷ばかりが感じられ、腹立たしいまでに甘ったるい匂いが立ちこめています。つきあいで出演したデニス・ホッパーやデヴィッド・ボウイは、どうかしています。

だいたい監督が、バスキアに近すぎます。あんなに親しくては、距離感を保つことなどできないでしょう。個性的な俳優たちも妙に小さくまとまり、脇役に徹しているようで、歯がゆいです。バスキアとアンディ・ウォーホルの関係も、あんな奇麗事だったのか。もっとアーティストらしい葛藤はなかったのでしょうか。

そんな中で、ジャーナリスト役のクリストフォー・ウォーケンが、バスキアの孤独さを引き出していたのがせめてもの救いです。歯に絹を着せぬ鋭い質問をぶつけながらも、言葉の根底に励ましがあり、それを理解したバスキアが微笑み返すシーンが、心に残りました。



映画「世界の涯てに」、全編を繊細なさりげない風が吹き抜ける

  • 2016.02.03 Wednesday
  • 16:17




「世界の涯てに」(1996年。香港映画)は、リー・チー・ガイ製作・監督・脚本の作品です。ケリー・チャンの肢体のようにしなやかで、金城武の笑顔のようにいとおしい。全編を繊細なさりげない風が吹き抜けていきます。

ヒロインは、香港を代表する海運王の娘。白血病の彼女は、スコットランドから来た船員テッド、モンゴルから来た探索屋ナーハオチュンと出逢います。二人がイギリス、中国を相対化しうる地域の出身という点も大切なポイントです。返還を前にした香港、イギリス、中国の関係にダブらせながらも、作品はその図式を大きく超えてはばたきます。

登場人物は、誰もがとても生き生きしています。香港の多面性をさりげなく映しだし、老人、子供、障害者を巧みに描く手腕には脱帽します。脚本は淀みなく、小さなエピソードの一つ一つが美しく、セント・キルダ島の荘厳さとともに心に残ります。ラストシーンで涙が出ました。なんという気持ちのいい、開かれた哀しみでしょう。



映画「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」、派手なコスチューム合戦

  • 2016.02.03 Wednesday
  • 15:13




「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」(1997年、アメリカ映画)は、ジョエル・シューマッカー監督作品です。キレの良い映像に感心したのは、最初の5分。バットマンは深い心の傷を持つ者の戦いから、派手なコスチューム合戦に変質しました。

だいたいジョージ・クルーニーに、深刻なトラウマがあるとは思えません。トラウマ・バトルから信頼、そして敵との友愛へ。なんともお行儀の良い娯楽大作になりました。後は着せかえと破壊を楽しむだけです。

そんな中でポイズン・アイビー役のユマ・サーマンは、なかなか活躍しました。アーノルド・シュワルツェネッガー扮するMr.フリーズのコスチュームも、それなりに楽しい。しかしだからこそ、Mr.フリーズは粉々になって死ななければなりませんでした。有名スターだからといって、手をゆるめたのは許せません。「マッズ・アタック!」で有名スターを殺しまくったティム・バートンの 志気を学んでほしかったです。

孤独なバットマンはもういない。前作「バットマン フォーエヴァー」でロビンという相棒を得、今回バット・ガールという女性が仲間に加わりました。一作ごとにメンバーを増やしていくつもりなのでしょうか。幅広い観客の動員を考えた安易な選択でしょうか。



映画「ロストハイウェイ」、凍りついた表情と、とろけるように甘美な身体

  • 2016.02.03 Wednesday
  • 13:40




「ロストハイウェイ」(1997年)を、ハリウッド映画の悪女ものを換骨奪胎したデヴィッド・リンチ監督お得意のデタラメな作品として受け入れることのできた人は幸せです。私は見終った後、激しい不安に襲われ、世界と自分への違和感が3日間続きました。久々に危険な映画を体験しました。

緊密なバランスに支えられ陰影に満ちた映像、フェイドアウトとハレーションの多用、きしむ音楽の波、凍りついた表情ととろけるように甘美な身体。さまざまな映像的なテクニックを駆使しながら、官能的なおびえた世界が形づくられています。

心が崩れたフレッド・マディソン役を健全派のビル・プルマンが演じるキャスティングの妙。アイドル的だったパトリシア・アークエットの肢体の崩れに釘づけになります。そして、ミステリー・マン役ロバート・ブレイクの不気味な優雅さは、格別です。ここに描かれているのは謎めいた物語ではありません。謎として現われてくる私たちのしわくちゃにねじれた存在そのものです。



アニメ「もののけ姫」、宮崎駿監督懸案のテーマにやや強引ながら一応の決着

  • 2016.02.03 Wednesday
  • 12:59




日本の室町時代を舞台にしたアニメ「もののけ姫」(1997年)は、宮崎駿監督の切実な思いが全編から伝わってくる大作です。豊かな構想力ときめ細かな人間描写、確かなアニメーション技術に裏打ちされた世界は、他の追従を許さない水準にあります。とりわけシシ神の池の美しさは、筆舌に尽くし難いです。

「アシタカは好きだ。でも人間を許すことはできない」「それでもイイ。サンは森で、私はタタラ場で暮らそう。共に生きよう」。この会話に監督のメッセージが集約されています。構造的に対立し合う人々が、友愛を結ぶためのスタンスは、これ以外にないでしょう。それが構造を変えていく可能性もありますが、緊張感のある友愛自体が美しく、私たちを勇気づけます 。

にもかかわらず重苦しさが付きまとうのは、おなじみの飛翔シーンが登場しないからでしょう。あの開放感はたまらない魅力の一つです。タタラ場の女性たちはふくよかで快活ですが、とぼけた味のキャラクターは少なかったと思います。笑える場面が乏しく、凄惨な戦闘シーンばかりが印象に残りました。多くの変化球を持つ宮崎監督が、直球勝負に出たためです。宮崎監督は「もののけ姫」で懸案のテーマにやや強引ながらも一応の決着をつけました。

そんな中で森の精霊・コダマの可愛らしさは救いでした。劇場でつまらなそうにしていた小さな子供たちが、コダマの登場ではしゃぎ始めました。小さく不思議な存在を描く監督のまなざしは、一転して柔らかくなります。



映画「ユメノ銀河」、少女たちの情念が反射する硬質なモノトーン空間

  • 2016.02.03 Wednesday
  • 12:42




石井聰互監督・脚本のモノトーン映画 「ユメノ銀河」(1997年)は、大人になりかけた少女たちの情念が反射する硬質な空間を開きます。大いなる間に支えられた明晰な映像が、人間の「えたいのしれなさ」を鮮明にします。何という清潔な謎でしょう。

小嶺麗奈がいい。時に浅野忠信を喰っていたのが驚きでした。友を殺したと確信している男に復讐しようとしながら、次第に男を愛していく自分に対する毅然とした姿がまぶしい。二人が初めて結ばれるシーンの、比類のない緊張に満ちた静けさは、圧倒的な自然描写の密度と拮抗しています。

よほど映像が張つめていなくては、ストーリーはリアリティを失ってしまいます。この作品はそれを持続しました。ハイテンションを持続できる石井監督ならではの力業です。それだけに、ラストの妊娠の告白の凡庸さが悔やまれます。それまでの寡黙な緊張が破れてしまいました。



映画「妻の恋人、夫の愛人」、劇中劇と絡み合う、お膳立ての整った恋愛劇

  • 2016.02.03 Wednesday
  • 12:38




「妻の恋人、夫の愛人」(1996年。イギリス映画)は、ジョン・ダイガン監督作品です。劇作家と新人女優、二人の関係を嫉妬する妻、そこに現われたハンサムな映画スター。お膳立ての整った恋愛劇ですが、劇中劇と絡み合い、それなりの厚みを醸し出しています。

夫の不倫に苦しむ妻は、作家としての才能が認められ映画スターと結ばれて幸せになります。一方劇作家と結婚した女優は単調な生活に孤独を感じます。終始、妻の立場に肩入れした展開はそれなりに新鮮でしたが、結末はもう一捻りほしいと思います。

実質的に物語をリードするロビン・グランジ役のジョン・ボン・ジョヴィは、めりはりのある演技をみせました。俳優としても十分才能に恵まれています。サイコ・スリラー的な凄みが意外に似合ったエレナ・ウェブ役のアンナ・ガリエナは、振幅のある妻を演じ切りました。

繊細だが腑甲斐ない劇作家フィリックス・ウェブを演じたランベール・ウィルソンも、はまり役でした。3人に比べると新人女優役ダンディ・ニュートンは、やや魅力に乏しいです。しかし、これも妻の視点のなせる業かもしれません。



映画「うなぎ」、重いテーマを、ユーモアを交えて軽やかに描いた悲喜劇

  • 2016.02.03 Wednesday
  • 12:20




「うなぎ」(1997年)は、今村監督2度目のカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品です。重いテーマを、ユーモアを交えて軽やかに描いた悲喜劇。その柔軟で繊細な手さばきは、十分受賞に値します。若手を脚本に加えた狙いも当たりました。

妻の浮気を目撃し包丁で刺し殺す役所広司の熱演は、誰もが評価するところです。妻役・寺田千穂の無言のまなざしも忘れ難い。そして、自殺未遂がきっかけで主人公と出逢う服部桂子役の清水美砂の見事な演技。確信犯とも言える主人公に対し、彼女の置かれた境遇ははるかに過酷です。清潔な印象が、かえって幾重にも屈折した心理を暗示します。

最も心をゆさぶられたのは、桂子が宴会の余興でフラメンコを踊るシーンです。その前に、心を病んでいる母親がフラメンコを踊る場面を繰り返し見せられ、桂子が「あの母の血をひいていると思うと怖くって」と言っていただけに、その境遇からのふっきりとして、これほど象徴的なシーンはないでしょう。今村映画に共通する力強い女性像です。

1997年作品。117分。監督=今村昌平。原作=吉村昭。脚本=富川元文、天願大介、今村昌平。音楽=池辺晋一郎。撮影=小松原茂、森英男、米田要、辺母木伸治。美術=稲垣尚夫、内田哲也。山下拓郎=役所広司、服部桂子=清水美砂、中島次郎=常田富士男、中島美佐子=倍賞美津子、斎藤正樹=小林健、服部フミエ=市原悦子、高田重吉=佐藤充、野沢祐司=哀川翔、堂島英次=田口トモロウ、高崎保=柄本明、山下恵美子=寺田千穂



重量感ある怪獣が登場する、しかし軽薄な内容の映画「レリック」

  • 2016.02.03 Wednesday
  • 12:16




「レリック」(1997年。アメリカ映画)は、ピーター・ハイアムズ監督作品です。重量感のある怪獣が登場する、しかし軽薄な内容の映画。一昔前のB級映画の古くさいストーリーに、数々のSF映画の真似事で味付けし、巨費を投じ最新のSFX技術で描いたという点では、「インデペンデンス・デイ」(ローランド・エメリッヒ監督)と同じ手法です。

「Xファイル」をベースに「エイリアン」「ザ・フライ」という名作を彷彿とさせるシーンを盛り込んではいますが、肝心のウイルスによる遺伝子の水平移動というアイデアがまったく生かし切れていません。進化の理論として注目されているこの学説は、ハイブリッドな生物が変身していくめくるめくような傑作映画を生み出すことも可能な理論なのですが。

コソガと呼ばれる怪獣は、サイやライオンを思わせる雰囲気。過去のSF映画に登場したクリーチャーの形態を混ぜ合わせたハイブリッドなのかもしれません。マーゴ・グリーンが超人的な活躍で生き残ったのは、アメリカ映画の伝統的な脳天気さです。そして東洋人が差別的に描かれています。



映画「奇跡の海」、映画の醍醐味に触れる2時間38分。激しい展開に打ちのめされる

  • 2016.02.03 Wednesday
  • 11:42




「奇跡の海」(1996年作品 。デンマーク映画)は、ラース・フォン・トリアー監督・脚本の作品です。感情移入を許さない辛辣な知的遊戯と粘性の高い悪意に染まっていた「ヨーロッパ」に比べ、「奇跡の海」はいっけん愛と犠牲を描いたセンチメンタルな物語に見えます。

しかし、随所にトリアーらしい企みが見え隠れしています。無垢な善行をテーマにしたこの作品のほうが、グリーナウェイらの知的な悪意より、始末におえないかもしれません。「ノスタルジア」に代表されるタルコフスキーの切実な祈りとも、似て非なるものです。

映画の醍醐味に触れる2時間38分。激しい展開に打ちのめされ、バッハの「シチリアーナ」で気持ちを落ち着かせます。信仰と性愛、献身と奇跡という宗教的テーマが、リアルな感触で捉えられています。

 

手ブレや焦点ボケ、荒い粒子という記録映像的な手法を取り入れた配慮も成功といえます。しかしデジタル処理された章ごとの冷えた映像によって管理されている点が、くせものです。監督は、巻き込みつつ距離感を演出します。

エミリー・ワトソンが演じるベスのすばらしさに感動しながらも、トリアーに感情を弄ばれているような感触がつきまといました。あまりにもお膳立てが整いすぎていながら、どこか不自然です。映画に揺さぶられる観客を見つめる監督のまなざしを感じます。ラストの鐘の映像は自分の映画への皮肉かもしれません。



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