『劇場版「SHIROBAKO」』

  • 2021.01.15 Friday
  • 22:06



アニメ『劇場版「SHIROBAKO」』は、2014年10月から2015年3月まで全24話が放送されたTVアニメの続編です。TVアニメ「SHIROBAKO」は、TVアニメ作品の完成を目指して奮闘するアニメ業界の日常を描く群像劇で、大きな感動を運んでくれました。

 

「白箱」というのは、制作会社が納品する白い箱に入ったビデオテープを指す業界の用語です。アニメの無事完成を象徴しています。

 

上山高校アニメーション同好会の5人は、学園祭で自主制作アニメを発表し、卒業後いつかもう一度、一緒に商業アニメを作ろう約束します。アニメ制作会社「武蔵野アニメーション」で制作進行として働く宮森あおいをはじめ、アニメーター、声優、3Dクリエイター、脚本家と、それぞれの場所でアニメ制作に携わっています。

 

アニメでは、架空のアニメ制作会社・武蔵野アニメーションを中心に、アニメ制作に携わる人々の奮闘を続きます。2クール、24話あるので、それぞれの担当の葛藤がきめ細かく描かれて、見応えがあります。

 

アニメでは、架空のアニメ制作会社・武蔵野アニメーションを中心に、アニメ制作に携わる人々の奮闘を描いています。つくっている人たちの苦労を知りながらアニメを見ると、アニメの魅力が増します。

 

私は、2015年のTVアニメ独断ベスト10の3位に選びました。個性的な人たちがぶつかり合い、協力して作品をつくる姿「SHIROBAKO」の面白さはアニメファンとしては、たまらないものがありました。

 

『劇場版「SHIROBAKO」』は、テレビシリーズから4年後、オリジナルの劇場用アニメ制作に取りくむ制作関係者の姿が描かれます。TVシリーズでは、TVアニメを制作しましたが、劇場版では劇場版アニメを制作することになりました。

 

2時間という限られた上映時間内で描くために、大味にはなっていますが、次第に盛り上げていく水島努監督の手腕が見事に発揮されて、満足感の残る結末になっています。

 


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劇場版「メイドインアビス 深き魂の黎明」

  • 2020.02.27 Thursday
  • 12:07



TVアニメ「メイドインアビス」は、2017年7〜9月に放送され、私の2017年独断アニメベストテンでは、年間2位と評価した傑作です。劇場版「メイドインアビス 深き魂の黎明」は、その続きとなる作品です。

 

アニメ「メイドインアビス」の原作は、つくしあきひとのダークファンタジーコミック。最初は12歳の探窟家見習いの少女リコと、謎のロボット少年レグを中心に物語が進みます。

 

アビスへの憧れが人一倍強いリコは、母ライザのような偉大な探窟家になることを夢見ていました。二人は、行方不明の母を探しに、底知れぬ巨大な縦穴・アビスの深層を目指します。のちに深界四層で出会った全身が毛で覆われたナナチが仲間に加わります。

 

劇場版「メイドインアビス 深き魂の黎明」の公開に先立ち、昨年2019年1月に劇場版総集編が前編と後編に分かれて上映されました。

 

TVアニメ第1話から第7話Aパートを再編集し新規カットを追加した「【前編】メイドインアビス 旅立ちの夜明け」と第7話Bパートから第13話を再編集し新規カットを追加した「【後編】メイドインアビス 放浪する黄昏」です。

 

前編は冒険活劇の楽しい展開が中心でしたが、後編は過酷な物語が前面に出てきます。とりわけ、ナナチとミーティの物語は、あまりにも辛い話で、胸が締め付けられました。ただ、総集編としては、まとまっていたと思います。

 

そして今回の劇場版「メイドインアビス 深き魂の黎明」。黎明卿と呼ばれているボンドルドとの戦いが中心です。残酷な実験を繰り返すボンドルド。壮絶な戦いが繰り広げられ、アクションシーンのキレも見事です。劇場版にふさわしい上質な仕上がりでした。

 

今回は、父としてボンドルドを慕うプルシュカの、目を背けたくなるような悲劇が描かれます。当初PG12指定とされていましたが、映倫の最終審査の結果R15+指定に引き上げられたのも、頷けます。それほどむごい運命が待ち構えていました。

 

ボンドルドは、アビスの呪いで人間性を失っていますが、アビスの真相に迫ろうとする姿勢は、最後まで揺るぎません。悪役としては、本当に見事な最後でした。

 

「この身体が破壊されてしまったことは甚だ残念ですが、君たちと出会い、ぶつかりあえたことは、かけがえのない喜び。君たちがこの先に進むことこそ、私の新たな憧れです。どうか君たちの旅路に、あふれんばかりの呪いと祝福を」
ボンドルドの最後の言葉が、とても印象的でした。

 

ストーリーとともに、丹念に書き込まれた背景美術も、大きな魅力です。美術監督は増山修(ますやま・おさむ)。音楽は、オーストラリアの作曲家ケビン・ペンキン。イギリスの王立音楽大学を卒業しています。アビスの世界観にぴったりの繊細で拡がりのある楽曲です。

 

可愛い絵柄と残酷な展開という点は「魔法少女まどか⭐マギカ」と共通していますが、マギカが鋭利な刃物だとしたら、アビスは体を溶かす毒薬です。「メイドインアビス」という美しくも、痛みに満ちた過酷な世界の中に溶かされていきます。

 

今回は深層6層へと出発するところで、終わります。そして、すぐに続編の制作が発表されました。原作では、6巻からのスタートとなります。今回の劇場新版がとても優れていたので、次回にも期待が高まります。

 

本編のほかに、ショートアニメ「マルルクちゃんの日常」が同時上映されています。全4話構成で本編の上映前に毎週異なるエピソードが流されます。毎週異なるという点では、観る入場者特典と言えます。

 

マルルクは、事故で倒れていた所をライザの師匠オーゼンに拾われて弟子になります。日の光に弱いため地上に出ることができず、深界二層の「監視基地」で見張りをしています。とても可愛いです。

 


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2019年独断劇場アニメベスト5

  • 2020.01.25 Saturday
  • 19:55



 

私が、2019年に見た作品の中から選んでいます。多くの傑作を見逃していると思いますが、ご了承ください。

 

★5位「空の青さを知る人よ」
長井龍雪監督、脚本家・岡田麿里、キャラクターデザイナの田中将賀で結成したアニメ制作チーム「超平和バスターズ」によるオリジナルアニメです。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」「心が叫びたがってるんだ。」につづく三部作の最後の作品です。前2作とともに埼玉県秩父市が舞台です。見事な脚本でした。派手さはありませんが、見終わった後に余韻が広がる作品です。声優初挑戦の吉沢亮が、18歳と31歳の主人公を演じ分けていました。驚くほどうまかったです。

 

★5位「プロメア」新しいアニメの質感
「天元突破グレンラガン」「キルラキル」の今石洋之監督と脚本家の中島かずきが、タッグを組んだオリジナルのアニメです。アニメーションスタジオのTRIGGERと、XFLAGが初めて共同製作しました。
スタイリッシュな作画が、魅力的です。「天元突破グレンラガン」を連想させる場面も多いのですが、パステルカラーを強調した色彩と幾何学的なポリゴンを活用した表現が、新しいアニメの質感を生み出しています。

 

★4位「トイ・ストーリー4」
綺麗な結末を迎えたと思っていた「トイ・ストーリー」が、予想外の続編を公開しました。相変わらず気持ちの良いテンポで物語が進みます。実写と変わらないリアルな風景、人形たちの微妙な表情の変化や繊細な質感の表現には、感動しました。「トイ・ストーリー2」以来19年ぶりに再登場した陶器製の人形ボー・ピープが大活躍します。
人形を、子供自らが作るという新たな視点の導入で、完璧な結末と思われたトイ・ストーリーの世界が、別の展開を見せます。ラストのウッディの決断も、新鮮でした。

 

★3位「天気の子」
監督が驚くほど冷静な作品づくりをしていることに感動しました。そして、揺るぎない作家性にも心を打たれました。とても楽しい映画ですが、議論を巻き起こす壮大な実験作品でもあります。RADWIMPSの効果的な曲が、作品をより豊かな世界へと高めています。中でも、女性ボーカルとして三浦透子が参加した「グランドエスケープ」は、深い感動を運んできました。
公開初日は、2019年7月19日。京都アニメーションの放火事件の翌日でした。新海監督は、舞台あいさつで作品を作り続ける決意を述べています。

 

★2位「海獣の子供」
渡辺歩監督が、五十嵐大介のコミック「海獣の子供」をもとにアニメ化しました。原作は緻密な書き込みが特徴ですが、アニメでも原作のタッチを生かした緻密な表現が追求されています。それに鮮やかな色彩と繊細な動きが加わり、これまで見たことのない質感のアニメ表現になっています。
ストーリーを追うよりも圧倒的に美しい映像に溺れる作品です。ただ、考えること、感じることの限界を実感するアニメでもあると思います。私は、VRを体験することで、この作品のテーマが、とても切実に感じられるようになりました。

 

★1位「スパイダーマン:スパイダーバース」
初代スパイダーマンのピーター・パーカーが殺された後、2代目スパイダーマンの少年マイルス・モラレスが、異次元から来た多彩なスパイダーマンたちとともに、世界の危機に立ち向かいます。
全く違う絵柄、様々な表現スタイルのスパイダーマンが登場しますが、アニメ表現も斬新です。実験的と言えるほどの尖った表現にも出会えます。多彩なアニメ表現の垣根を超え、見事な融合を果たしました。劇場アニメは、新しい地平に踏み出したと言えます。

 

次点★「きみと、波にのれたら」
濃厚な作家性、過剰な表現が持ち味の湯浅政明監督ですが、今回は様々なアイデア、魅力的な表現を盛り込みつつ、明るい歌にのせて、軽快にテンポよく進みます。これくらいの濃度で気持ちよく流れる作品も悪くありません。これはこれで新たな挑戦だと思います。


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アニメ「空の青さを知る人よ」

  • 2019.12.15 Sunday
  • 08:17



長井龍雪(ながい ・たつゆき)監督、脚本家・岡田麿里(おかだ・まり)、キャラクターデザイナの田中将賀(たなか・まさよし)で結成したアニメ制作チーム「超平和バスターズ」によるオリジナルアニメです。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」「心が叫びたがってるんだ。」につづく三部作の最後の作品です。前2作とともに埼玉県秩父市が舞台です。見事な脚本でした。

 

両親を事故で亡くした姉あかねと妹あおいは、秩父で暮らしています。13年前、金室慎之介はミュージシャンになるために上京します。あおいを心配するあかねは恋人の金室慎之介と上京することを諦めています。慎之介は、大物歌手のバックバンドのメンバーとして秩父にやってきますが、突然あおいの前に、13年前の慎之介が時を超えて現れます。あおいも、慎之介が好きでしたが、姉に負い目を感じてもいます。

 

声優初挑戦の吉沢亮が、18歳と31歳の慎之介を演じ分けていました。驚くほどうまかったです。

 

「空の青さを知る人よ」という題は、有名な「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」からとられています。あおいのために、秩父に残ったあかねが卒業文集に書いた言葉です。派手さはありませんが、見終わった後に余韻が広がる作品です。


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劇場アニメ「HELLO WORLD」

  • 2019.12.15 Sunday
  • 08:14



伊藤智彦(いとう・ともひこ)監督、制作は3DCGが得意なグラフィニカです。舞台は2027年の古都・京都です。内気な男子高校生・堅書直実(かたがき・なおみ)の前に、10年後の自分だという人物・ナオミが現れます。そして、彼と恋人になる女子高生1年生の一行瑠璃 (いちぎょう・るり)が事故で死ぬ未来を変えてほしいと頼みます。

 

直実の認識している世界は現実ではなく、歴史の保存を目的としたアルタラと呼ばれるシミュレーターの中に仮想世界であることが明らかにされます。京都の世界は、人も含め完全にコピーされ続けているという設定です。実際に現実化しつつあるミラーワールドを先取りしたような近未来SFです。

 

自動運転のため高速道路などで始まっているミラーワールド化は、限られたデータによるリアルタイムの仕組みですが、「HELLO WORLD」の世界はパラレルワールドのように膨大なデータを必要とする精密なものという設定です。2027年では、結構無理があります。

 

脚本は、小説家の野崎まど。TVアニメ「正解するカド」同様、面白い設定ながら、展開にあざとさを感じます。今回も、畳みかけるようなどんでん返しの連続がうまく生かされていません。

 

肝心の仮想世界を表現するCGは、予算の関係かもしれませんが、手抜き感があり、古さがぬぐえません。作品を、平板なものにしています。

 

伊藤智彦監督は、「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」という傑作を生み出していますが、今回はビジュアル、ストーリーの両面で、やや疑問が残りました。


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アニメ「天気の子」、議論を巻き起こす壮大な実験作品

  • 2019.08.30 Friday
  • 07:20



新海誠監督の新作アニメ「天気の子」は、もうご覧になりましたか。期待を裏切らない作品に仕上がっています。いや、期待以上の驚きを与えてくれました。

 

歴史的な大ヒットを記録した「君の名は。」から3年。新海誠監督が、どんな新しい作品を届けてくれるのか、とても楽しみにしていました。「天気の子」を観て、監督が驚くほど冷静な作品づくりをしていることに感動しました。そして、揺るぎない作家性にも心を打たれました。

 

制作スタッフは、「君の名は。」とほぼ同じですが、組織体制は変わっています。 プロデューサーの古澤佳寛、川村元気の両氏は、東宝を飛び出し、2017年9月に新会社STORYを設立しました。このSTORYが企画・製作に当たりました。そのことで、新海監督の大胆な挑戦が可能になったのだと思います。

 

16歳の高校1年生の男の子が、島から家出し、東京にやって来ます。オカルト雑誌のライターの仕事を始めますが、不思議な少女と出会います。彼女には、「祈る」ことで天気を晴れにできる能力がありました。

 

その力で、仕事を始め注目されますが、物語は意外や方向へと発展していきます。雨の表現は、ますます多彩になりました。そして天候による都市の表情の変化の美しさには目を見張りました。世界を輝かせる新海マジックは、健在でした。

 

主人公の森嶋帆高の声優は、醍醐虎汰朗。彼と出会う少女・天野陽菜の声優は森七菜が担当しています。2000人のオーディションの中から選ばれました。初々しくてなかなか良かったです。

 

空前のヒットを記録した「君の名は。」ですが、2000万人以上が観たことで、予想外の批判も起こりました。新海監督は、それを前向きに受け止め、あえて賛否の分かれるストーリーにしています。とても楽しい映画ですが、議論を巻き起こす壮大な実験作品でもあります。

 

雨が降り続く東京が舞台。大雨被害が相次いでいる天候不順な時期に公開されたことで、「天気の子」の世界は、異様なリアルさを持ち始めます。新海監督の時代感覚の鋭さを感じさせます。そして地球規模の長期的な視点が、印象的でした。

 

公開初日は、7月19日。京都アニメーションの放火事件の翌日でした。新海監督は、舞台あいさつで悲惨な事件に触れながら、「どういうことがあったとしてもエンターテインメントを作って表現することで自分たちや誰かを傷つける可能性もゼロではないけれど、怯まずに、それをやり続けていくことが自分たちの役目であり、一番やりたいことなんだなと改めて思いました」と、作品を作り続ける決意を述べています。その言葉に、うたれました。

 

今回もRADWIMPSが音楽を担当しています。効果的な曲が、作品をより豊かな世界へと高めています。中でも、女性ボーカルとして三浦透子が参加した「グランドエスケープ」は、深い感動を運んできました。

 


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劇場アニメ「きみと、波にのれたら」

  • 2019.08.17 Saturday
  • 10:01



「きみと、波にのれたら」の予告編を観ると、薄っぺらな恋愛ものに思えましたが、作家性がつよい湯浅政明監督なので、それだけで終わるはずはないと思い、劇場に足を運びました。

 

サーフィン好きな女子大生と消防士の青年が恋に落ち、甘い日々を送りますが、後半は予想外の展開を見せます。前作「夜明け告げるルーのうた」に続くオリジナル作品です。独創的な水の表現が見所です。

 

濃厚な作家性、過剰な表現が持ち味の湯浅監督ですが、今回は様々なアイデア、魅力的な表現を盛り込みつつ、明るい歌にのせて、軽快にテンポよく進みます。

 

「マインド・ゲーム」など過激で濃密な作品だけでなく、これくらいの濃度で気持ちよく流れる作品も悪くありません。これはこれで新たな挑戦だと思います。


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アニメ「トイ・ストーリー4」

  • 2019.08.17 Saturday
  • 09:53



綺麗な結末を迎えたと思っていた「トイ・ストーリー」が、予想外の続編を公開しました。新作「トイ・ストーリー4」は、ピクサー作品でストーリーボード・アーティストを担当してきたジョシュ・クーリーが、長編初監督を務めました。

 

「トイ・ストーリー4」の予告編を見たとき、くにゃくにゃの使い捨てフォークが仲間入りしていて、何かの冗談かと思いましたが、ウッディたちの新しい持ち主になった女の子ボニーが工作で作ったフォークの人形・フォーキーは、とても重要な役回りをします。

 

相変わらず気持ちの良いテンポで物語が進みます。実写と変わらないリアルな風景、人形たちの微妙な表情の変化や繊細な質感の表現には、感動しました。「トイ・ストーリー2」以来19年ぶりに再登場した陶器製の人形ボー・ピープが大活躍します。

 

人形を、子供自らが作るという新たな視点の導入で、完璧な結末と思われたトイ・ストーリーの世界が、別の展開を見せます。ラストのウッディの決断も、新鮮でした。

 

最初の「トイ・ストーリー」は、ピクサー・アニメーション・スタジオが制作して、1995年に公開されたコンピュータアニメ作品でした。

 

私が自分のホームページを開設したのは、1996年3月18日です。その月に日本で劇場公開されたのが、「トイ・ストーリー」でした。長さは81分。さっそく、ホームページに映画の感想を書きました。こんな内容です。

 

アニメ「トイ・ストーリー」(1995年)は、とても良くできています。完成作品総メモリー500GB。世界初の3Dフル・コンピューター・グラフィックス・アニメーションという話題性に溺れずに、全編を通じてアニメの職人芸と優しさがあふれています。さまざまな人形キャラクターの描き分けも見事です。ラストに向かって徐々にスピードを上げていく演出も巧みでした。

「ベイブ」は動物の視点から人間を見つめていましたが、「トイ・ストーリー」はおもちゃの視点で子供たちの移り気や残酷さを見つめています。おもちゃを破壊する、敵役のシド少年が作り上げたフリーク・トイのデザインは、子供の無邪気さと悪意を象徴していて、秀抜です。彼等がカウボーイ人形ウッディの呼びかけで、シド少年を脅かしに行くシーンはおもちゃ版「フリークス」でしょうか。

「マスク」「ジキル博士はミスハイド」など、人間のアニメ化が盛んになる一方、人形たちに人間らしい息吹を吹き込む技術としてもコンピューターは力を発揮します。もう垣根はありません。生物と無生物。人間と動物。そんな壁を軽々と乗り越えて、主人公がさまざまな視点から世界を体験する時代です。

 

以上です。
さまざまな視点から世界を体験する時代。あれから23年が経ち、今まさにVRによって実現しようとしている世界です。

 

「トイ・ストーリー」の着想のきっかけを作ったのは、おもちゃコレクターの北原照久です 。監督のジョン・ラセターが横浜の北原が運営するブリキのおもちゃ博物館を訪問したことでトイ・ストーリーの構想が誕生しました。

 

1990年代では、CG製作に多額の費用が必要でした。ピクサーのCEO最高経営責任者・スティーブ・ジョブズの資産がなければ、制作は不可能でした。公開までの4年間の投資額は5000万ドルに上りました。しかし「トイ・ストーリー」のヒットでピクサーの株は高騰し、スティーブ・ジョブスの資産は4億ドル増えました。そしてピクサーが、良質なCGアニメを制作していける基盤ができました。

 


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劇場アニメ「海獣の子供」圧倒的な映像体験

  • 2019.06.25 Tuesday
  • 17:33



渡辺歩監督 が、五十嵐大介 が2006年から2011年にかけて連載したコミック「海獣の子供」をもとにアニメ化しました。五十嵐のコミックがアニメ化されるのは今回が初めてです。

 

「海獣の子供」は、中学生の少女・琉花が、ジュゴンに育てられた2人の少年と出会い、驚異の海洋体験をする物語です。

 

渡辺監督は、劇場版「ドラえもん」シリーズなどを監督してきました。制作は、アニメ表現にこだわることで有名なSTUDIO4°C。6年間かけて制作しました。音楽は、久石譲が、担当。映像世界をしっかりと支えています。

 

キャラクターデザインと総作画監督を、小西賢一が担当しています。小西賢一は「かぐや姫の物語」「千年女優」などの作画監督として有名です。彼も、こだわりの人です。

 

原作は緻密な書き込みが特徴ですが、アニメでも原作のタッチを生かした緻密な表現が追求されています。それに鮮やかな色彩と繊細な動きが加わり、これまで見たことのない質感のアニメ表現になっています。

 

あたらしいアニメ表現を、大きなスクリーンで見る幸せをかみしめました。

 

私は、2010年前後、連載途中の「海獣の子供」を読みました。その圧倒的な画力に驚きましたが、伝えようとしているテーマについては、心の奥には十分届いていませんんでした。

 

2014年に没入型のVRを体験し、人間の感覚について学びなおすことによって、「海獣の子供」のテーマは、心の奥にまで届くようになりました。

 

映画の中で「鯨の歌は、とても複雑な情報の波なんだ。鯨たちはもしかしたら、見た風景や感情をそのままの形で、伝え合って共有しているのかもしれない」という話が出てきます。


これは、今後VRが実現しようとしていることです。

 

研究者でアーテストの落合陽一さんは、「VRで人はイルカのようになる」と話しています。イルカは、超音波によって周囲の状況を3次元的に把握し、それを超音波によって仲間に伝えています。人間も、周囲の状況を3Dスキャンして、他人にデータとして送ったものをVR機器で再生することで、複数の人々が同じ体験を共有できるようになります。

 

「この世界に在るもののうち、僕ら人間に見えているものなんて、ほんの僅かしかない」人間と鯨などの世界は全く違い、人間には分からない世界が広がっているという「環世界」という考えが出てきます。

 

すべての動物はそれぞれに特有の知覚世界をもって生きています。環境を、独自の時間・空間として知覚しています。環世界は、もともとユクスキュルが提唱した生物学の概念です。


しかし生物学を超えて、哲学にも大きな影響を与えました。ユクスキュルは、カント哲学の影響を受けています。

 

五十嵐大介は、人間の認識の狭さを繰り返し描いています。環世界の意味の「ウムヴェルト」という題名の短編も書いています。

 

アニメでは、この世界のあり方について印象的な言葉が話されますが、それは言葉による比喩に過ぎません。時間も空間も、生も死も、人間の狭い認識に過ぎません。「誕生祭」と呼ばれている出来事も、人間がかってに意味づけをしているに過ぎないと思います。

 

このアニメはストーリーを追うとわからなくなります。考えるのではなく、感じる映画と言われます。たしかにストーリーを追うよりも圧倒的に美しい映像に溺れる作品です。ただ、考えること、感じることの限界を実感するアニメでもあると思います。

 

私は、VRを体験することで、この作品のテーマが、とても切実に感じられるようになりました。

 

2019年6月は、VR30周年なんです。1989年6月にバーチャルリアりティが体験できるゴーグル型の機器が発売されました。耳の機器がイヤフォンなので、目の機器ということで「アイフォン」と名付けられました。30年たって、VR機器が高性能で安価になりました。これから様々な分野で使われていきます。どんどん身近になります。


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劇場版アニメ「プロメア」新しいアニメの質感

  • 2019.06.25 Tuesday
  • 17:31


 

 

「天元突破グレンラガン」「キルラキル」の今石洋之監督と脚本家の中島かずきが、タッグを組んだオリジナルのアニメです。アニメーションスタジオのTRIGGERと、XFLAGが初めて共同製作しました。

 

 

 

2007年にTV放送されたロボットアニメ「天元突破グレンラガン」は、衝撃的でした。今石監督は、「天元突破グレンラガン」で初めてTVシリーズアニメの監督を務めました。劇団☆新感線の座付作家として活躍する中島かずきとは、アニメ「Re:キューティーハニー」で出会いました。

 

「プロメア」は、炎をテーマにしていますが、全編が激しく燃え続けている熱血ドラマです。炎を操る人種「バーニッシュ」が突然出現し、「世界大炎上」が起こり、世界の半分が焼失します。そして攻撃的なバーニッシュ「マッドバーニッシュ」は、世界を危機に陥れようとしています。

 

対バーニッシュ用の救命消防隊「バーニングレスキュー」の新人隊員ガロと、マッドバーニッシュのリーダー・リオは、互いの信念をぶつけあいますが、やがて心を通わせていきます。

 

主人公ガロを松山ケンイチ、リオを早乙女太一、ガロの上司クレイを堺雅人が、担当し、実力派俳優としての力をいかんなく発揮しています。堺雅人の豹変ぶりには、いつもながら驚かされます。

 

スタイリッシュな作画も、魅力的です。「天元突破グレンラガン」を連想させる場面も多いのですが、パステルカラーを強調した色彩と幾何学的なポリゴンを活用した表現が、新しいアニメの質感を生み出しています。

 

2時間に壮大な物語を凝縮しているので、クライマックスシーンの連続です。ただ、緊張がつづき、緩急がないので、魅力的な場面にも、だんだん慣れてしまいます。見ごたえはありますが、ちょっと残念な気もします。

 

ただ、決め台詞も多く、劇場で盛り上がるタイプの作品です。6月20日には、「発声OK!応援上映」も行われました。

 

入場特典と教えてもらったインターネットのアドレスで、ガロが「バーニングレスキュー」に入隊するエピソードを描いた「ガロ編」を観ました。10分間の短編ですが、しっかりと作りこまれていました。得した気分になりました。

 


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