映画「ミスティック・リバー」、川の水は、濁っていて冷たすぎます

  • 2016.01.05 Tuesday
  • 07:34




イーストウッド監督は、ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケビン・ベーコンという名優を迎え、ミステリーのスタイルを借りて残酷で濃厚な人間ドラマ「ミスティック・リバー」(2003年)を生み出しました。

偶然にほんろうされ傷つき、さまざまな弱さを抱えて生きている人々を襲う錯綜した悲劇。短いシーンを巧みに組み合わせて多面的な事実を明らかにしていく構成は完璧と言えます。

優れた作品であることは間違いないが、好きになれません。救いがないからではありません。観ていて、監督にもてあそばれているように感じるからです。

理不尽な殺人が繰り返される展開が、最後に夫婦喧嘩を仲裁するという偽りの明るさが気に入りません。高みからの俯瞰が多い映像は、どこか寒々としています。ラストで画面を覆うミスティック・リバーの水は、濁っていて冷たすぎます。



映画「再見 また逢う日まで」、たくさん泣かせますが、涙が乾くのも早い

  • 2016.01.05 Tuesday
  • 00:01




ユイ・チョン監督の「再見 また逢う日まで」(2001年)は、歴代中国映画興行収人成績のベストテンに名を連ねる大ヒットを記録しました。

貧しいが仲の良い家庭で育った4人の兄弟は、突然両親が事故で死に、離散を余儀無くされます。アメリカにわたり女性指揮者となったスーティエンが、20年ぶりに祖国・中国に帰り、コンサートを開きます。そして兄弟探しを始めます。映画は、幼い日々と現在を行き来しながら、情感を盛り上げていきます。

別れて生きていかざるをえなくなった4人の兄姉弟妹の泣き顔が、繰り返し繰り返し登場します。このシーンを見て泣かない人は、よほど強靱な精神の持ち主です。

たくさん泣かせることに徹した作品。その大量の涙によって映画的な欠点をきれいに洗い流してしまいます。しかし、涙が乾くのも早い。作品の底の浅さは隠しようがありません。何よりも、ラストが中国万歳になってしまったのはいただけません。



映画「ジョゼと虎と魚たち」、柔らかく繊細な映像、抜群の映画的センス

  • 2016.01.04 Monday
  • 23:37




犬童一心監督の「ジョゼと虎と魚たち」(2003年)を観ました。相変わらず柔らかく繊細な映像で、抜群の映画的なセンス。田辺聖子の原作を渡辺あやが見事な脚本に膨らませています。

大学生・恒夫の物語が、やがてジョゼの自立の物語へと変わっていきます。その語り口の巧みさに舌を巻きました。さり気なく見えて、ジョゼの包丁のようにキレの良い展開です。

前作「金髪の草原」は、独創的な機知に満ちていましたが、アイデアを詰め込むあまり、ややバランスを欠くきらいもありました。今回はさまざまなアイデアが自然に溶け込んでいた。わずか1か月で撮影されたとは、とても思えません。

ジョゼ役の池脇千鶴が抜群にうまい。「金髪の草原」でも感心しましたが、今回は貫禄すら感じられます。そして恒夫役・妻夫木聡の演技派ぶりに驚かされました。「ウォーターボーイズ」で「へえーっ」と思い、「ドラゴンヘッド」 で「なんだ?」と失望したが、今回は「うわあっ!!」。大学生の心の揺れを肩に力を入れず見事に演じていました。

麻雀屋の客をはじめ、キャスティングの妙も魅力のひとつです。初脚本の渡辺あやほか、才能あふれる新しいスタッフが作品を支えています。パンフは極力買わない主義ですが、シナリオが載っていたので、800円のパンフを買ってしまいました。



映画「ラブストーリー」、どっぷりと青春の恋愛劇に浸らせてくれます

  • 2016.01.04 Monday
  • 21:25




2002年の夕張映画祭で、あまりの面白さに腰を抜かした「猟奇的な彼女」のグランプリ獲得から1年。2003年の夕張映画祭には新作「クラシック」を完成させて参加したクァク・ジェヨン監督。残念ながら映画祭では作品を見ることができませんでした。そして1年。劇場で念願の「クラシック」を観ました。

どういうわけか、邦題は月並みな「ラブストーリー」(2003年)に変えられていました。原題の「THE CLASSIC」には、作品を貫く重層的な意味が込められていたのに、変えた理由が分かりません。

「猟奇的な彼女」は普通の映画3本分の面白さが詰まっていましたが、「ラブストーリー」はどっぷりと青春の恋愛劇に浸らせてくれます。ファンタジックなほどの純愛が展開されます。

パッヘルベルの「カノン」、ショパンの「悲愴」、ビバルディの「チェロ協奏曲ロ短調」などのクラシック音楽が効果的に使われています。過去(1968年)と現在(2003年)、母と娘をつなぐ物語。巧みなストーリーに泣かされながら、思わぬラストに驚かされて、さわやかな気持ちになります。

クァク・ジェヨン監督の脚本は、本当に素晴らしい。監督は、希代のストーリーテラーにして、珍しいほどのロマンチストです。涙はすぐに乾くことなく、心を潤し続けました。



映画「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」、壮大にして琴線に触れる魂のドラマ

  • 2016.01.04 Monday
  • 21:20




2002年公開「ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間」、2003年公開「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」に続いて、完結編「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」(2003年)が劇場公開されました。待ちに待っていた2004年2月7日の先行上映に大雪の中を駆け付けました。

ピーター・ジャクソン監督は「前2作はこの『王の帰還』のためにあったと言っても過言ではない」と話していましたが、壮大にして琴線に触れる魂のドラマでした。数々のシーンで息を飲み、クライマックスでは息をするのも忘れました。

たたみかけるように物語は進みます。戦争シーンはさまざまなアイデアで満ちあふれています。大蜘蛛シェロブの洞窟シーンの出来も、期待を裏切りません。

サムとフロドが危機的な状況の中でホビット庄の思い出を語るシーンで涙が出ました。そして、最後は第1部「旅の仲間」の前半のようなのどかな時間が流れます。この表現の振幅の大きさこそ、この大作の持ち味です。



映画「シービスケット」、アメリカの人々を勇気づけた1頭の馬にまつわる史実

  • 2016.01.04 Monday
  • 19:08




ゲイリー・ロス監督の「シービスケット」(2003年)は、世界恐慌で疲弊したアメリカの人々を勇気づけた1頭の馬にまつわる史実を描いたノンフィクション「 シービスケット―あるアメリカ競走馬の伝説 Seabiscuit: An American Legend 」の映画化です。

実話であることが信じられません。絵に書いたように成功と挫折が繰り返えされます。そして感動の波は何度も押し寄せます。

シービスケットというくせのある馬を記録破りの競走馬に育てた馬主ハワード、調教師トム、騎手レッド・ポラード。この3人は、それぞれに深い挫折を経験しています。だからこそ、シービスケットを見い出すことができたといえます。

ジェフ・ブリッジス、クリス・クーパー、そしてトビー・マグワイアが、熱演しています。とりわけジェフ・ブリッジスの渋さが目立ちました。彼等の演技によって、月並みな成功談にならず、静かに心を揺さぶられる作品になっています。ただ心地よいですが、図式的すぎて、それほど深い感動ではありません。



映画「マスター・アンド・コマンダー」、ラッセル・クロウの存在感が際立つ

  • 2016.01.04 Monday
  • 16:53




「マスター・アンド・コマンダー」(2003年)は、ピーター・ウィアー監督の作品です。1805年。ナポレオン率いるフランス軍の武装船アケロン号に立ち向かう、イギリス海軍の艦長ジャック・オーブリーと軍医スティーヴン・マチュリンの友情の物語です。

海戦のリアリティはもちろんのこと、衣装のボタンまで細部にわたって当時の様子を忠実に再現しています。ガラパゴス諸島ロケも見ごたえがあります。

この作品の主人公は、少年たちではありません。PRコピーや予告編が、あたかもや少年が主人公のように宣伝しているのは、どういう訳でしょう。

やはりラッセル・クロウの存在感が際立っていますが、マチュリン役のポール・ベタニーも対照的な役回りを的確に演じています。そして、クライマックスでは戦争と博物学が見事にクロスします。

ただ、イギリス万歳の一方的な描き方はいただけません(ロンドン映画批評家協会賞の作品賞に輝いたのは、そのためか)。イギリスの階級意識にたいする無批判性も気に入りません。階級で任務にもすごい差別があったのですから、ちゃんと描いてほしかったです。



映画「半落ち」、泣きながらラストの紅葉を見つめました

  • 2016.01.04 Monday
  • 16:07




「半落ち」(2003年)は、佐々部清監督作品です。アルツハイマー病を患う妻を殺し自首してきた元刑事の梶聡一郎は、妻殺しは認めたが、自首までの2日間については頑に自供を拒絶します。

映画は、主人公が空白の2日間に何をしていたかを追います。殺人を犯さなければならなかった梶聡一郎の心情とともに、警察、検察、司法、マスコミに関わる、さまざまな人々の思いも丁寧に描いていきます。そして、意外な真実が明らかになります。

配役は、みな主役クラス。場面場面で、印象に残る演技をみせます。最初は刑事役の柴田恭兵に注目し、犯人役の寺尾聰の寡黙な演技に感心しました。

しかし、妻の姉の役で控えめな演技をしていた樹木希林が裁判で証言するシーンには感嘆しました。感情が一気に高ぶり涙があふれました。その後にも感動的なシーンが波状的に続き、泣きながらラストの紅葉を見つめました。監督の上手さに脱帽です。



映画「美しい夏キリシマ」、爆撃を生き延びた15歳の少年

  • 2016.01.04 Monday
  • 15:29




映画を観た後、なかなか感想が書けない作品があります。黒木和雄監督の「美しい夏キリシマ」(2002年)もそうです。シアターキノで、監督自らの思いを聞いたということも、影響しています。

57年間、深いトゲとなって監督の胸に刺さっていた少年時代の体験。爆撃で級友が命を落とした衝撃。いや、級友に助けを求められながら、怖くて逃げたという負い目が、監督を苦しめ続けてきました。そして、監督の贖罪の思いは、長い時間によってユーモアと残酷、幻想と現実が溶け合った清明な映画作品へと結実していました。

映画には、戦闘シーンが登場しません。しかし、間違いなく戦時下の1945年の夏が描かれています。多くの級友を失った爆撃を生き延びた15歳の少年と周囲の人々の物語です。

主人公を演じるのは、柄本明の息子・柄本佑。これがデビュー作となります。思いつめているのか、あっけらかんとしているのか、にわかに判別できない15歳の少年が、無気味なほどリアルです。

時代にほんろうされながらも、かけがえのない人生を生きる一人ひとりを丹念に描くことで、戦争の恐ろしさが深く刻み込まれています。寡黙な監督の寡黙な作品は、雄弁に戦争を告発しています。



映画「この世の外へ クラブ進駐軍」、ジャズを通じて人々が出会う歴史

  • 2016.01.04 Monday
  • 13:08




「この世の外へ クラブ進駐軍」(2003年)は、阪本順治監督が、9.11の同時多発テロに触発されて取り組んだ作品です。太平洋戦争終結から2年後を舞台にジャズを通じて人々が出会い、信頼しあった歴史を描いています。

見事なセットに支えられて敗戦後の混乱ぶりと人々のバイタリティが伝わってきます。さらに、米軍の兵士たちの苦悩も丹念に追っています。

登場人物へのまなざしは、みな温かいのですが、社会運動をして警察に弾圧される人たちへのまなざしには温もりが感じられません。


音楽を通じた友愛という希望を浮き彫りにしようとした狙いは理解できます。しかし「武器を楽器に」という監督の思いとは裏腹に、「武器も楽器も」戦争にかり出されているのが現実でしょう。

一方、音楽が壁を超えるきっかけになることも事実です。ただし、異質なものを理解しようとしなければ、共存や平和は訪れないでしょう。



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